第5章 微分
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5.1 グラフの傾きと微分
関数を扱う上できわめて強力な道具であり、実際の自然や社会の現象を数学で解析する上で不可欠な概念
適当な関数$ y=f(x)を考える
どんな形でもよいがなめらかにつながっているとする
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今$ y=f(x)のグラフ上の点Pをひとつ選び、その点における接線を考える
微分というのは、この直線(曲線の接線)の傾きのこと
点Pの座標を$ (x_0,f(x_0))とし、この直線の傾きを$ aとする
$ aを「関数$ f(x)の, $ x=x_0における微分係数」と呼ぶ
ただしこの定義は後で別の形で書き換える
「接線の傾き$ a」の値はどのように求められるか
ここで、$ x_0 に近い実数$ x_1を考え、点$ (x_1,f(x_1))を点Qと名付ける
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点Pと点Qの両方を通る直線を考える
その直線の傾きは$ \mathrm{\frac{QR}{PR}}なので$ \frac{f(x_1)-f(x_0)}{x_1-x_0}
当然、この直線PQと点Pにおける接線は一致しない
しかし、もしも点Qが十分に点Pに近ければ、この2つの直線はほぼ一致するということが直感的にわかるだろう
その時、「点Pにおける接線」の傾き$ aは「点Pと点Qを通る直線」の傾きにほぼ一致する
$ a\fallingdotseq\frac{f(x_1)-f(x_0)}{x_1-x_0}\qquad(5.1)
習慣的に$ x_1-x_0を$ \Delta xと書く
$ x_1=x_0+\Delta xなので式(5.1)は
$ a\fallingdotseq\frac{f(x_0+\Delta x)-f(x_0)}{\Delta x}\qquad(5.2)
ここで$ \Delta xを限りなく$ 0に近づけるような極限では、この左辺と両辺は一致する
$ a = \lim_{\Delta x\rightarrow 0}\frac{f(x_0+\Delta x)-f(x_0)}{\Delta x}\qquad(5.3)
$ \Delta xを導入せずに式(5.1)をそのまま使ってもよい
$ a=\lim_{x_1\rightarrow x_0}\frac{f(x_1)-f(x_0)}{x_1-x_0}\qquad(5.4)
5.2 微分の定義
$ a「関数$ f(x)の$ x=x_0における微分係数」
慣習的には$ aのかわりに$ f'(x_0)と書く
$ aの値は点Pの位置によって違うし、関数が複数あるときにはどの関数の話なのかをはっきりさせたい
$ g'(x_3)「関数$ g(x)の$ x=x_3における微分係数」
微分係数の定義 (1)
関数$ f(x)の$ x=x_0における微分係数を$ f'(x_0)と書き、以下のように定義する $ f'(x_0):=\lim_{\Delta x\rightarrow0}\frac{f(x_0+\Delta x)-f(x_0)}{\Delta x}\qquad(5.5)
どの教科書にも載っている有名な式
高校では$ \Delta xのかわりに$ hという記号が使われるのが普通
この式とは別の視点で「微分」の本質に迫る考え方がある
図5.1における「点Pでの接線」は「$ (x_0,f(x_0)を通り、傾き$ f'(x_0)の直線」という条件から、
$ y=f(x_0)+f'(x_0)(x-x_0)\qquad(5.6)
という方程式で表される
そしてこの接線のグラフは、点Pの知覚で$ y=f(x)のグラフに重なる
そこで、「点Pの近く」に限定すれば、式(5.6)は関数$ y=f(x)とほとんど等しいと言える
$ f(x)\fallingdotseq f(x_0)+f'(x_0)(x-x_0)\qquad(5.7)
$ \fallingdotseqは「ほぼ(近似的)に等しい」という意味の記号
ここで改めて$ x-x_0=\Delta xと置こう
つまり$ x=x_0+\Delta x
$ f(x_0+\Delta x)\fallingdotseq f(x_0)+f'(x_0)\Delta x\qquad(5.8)
この状況をグラフで表すと、図5.3の上で点Sを点S'で近似するということ
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$ x=x_0+\Delta xと$ x_0が限りなく近い状況を考える
「$ 0ではないけれど、限りなく$ 0に近い」という状態(極限)を想定する
そのときの$ \Delta xを慣習的に$ dxと書く
$ dと$ xは別々の数ではなく、$ dxで一つの数を表す
この場合、式(5.8)は以下のようになる
$ f(x_0+dx)=f(x_0)+f'(x_0)dx\qquad(5.9)
ここで$ \fallingdotseqだったところが$ =に変わってしまったことに注意
$ \Delta x が$ 0に近づくとき、つまり点Sが点Pに近づく際、SやS'がPに近づくよりも速く、SとS'が近づきあう
誤差(点Sと点S'の距離)は$ \Delta xが$ 0に近づくよりもずっと速く$ 0に近づく
したがって、極限では誤差は実質的に$ 0になると考える
「$ 0ではないが、限りなく$ 0に近い」という仮想的な微小量$ dxを無限小という 実際の数は$ 0でない限り$ 0との間に必ず有限な差が存在し、そのような現実の微小量を有限小という $ dや$ \Deltaはdifference「差」
式(5.9)によると、微分係数$ f'(x_0)は、関数$ f(x)を「微小量$ dxの一次式」で近似したときの、$ dxの係数である これは「接線の傾き」とは別の視点での答であり、「微分とは何か?」に答える大切な考え方
$ xや$ y がベクトルの場合は、図5.1のようなグラフを描くことはできないので、接線や傾きは無意味になる
しかも$ \Delta xや$ dxがベクトルになり、「ベクトルで何かを割る」ことはできないので式5.5が行き詰まる
そのような場合でも式(5.9)は素直に拡張できる
我々は式(5.9)も「微分係数の定義」として採用する
微分係数の定義 (2)
関数$ f(x)と微小量$ dxに関して、次式を満たす数$ f'(x_0)を$ x=x_0における$ f(x)の微分係数と定義する
$ f(x_0+dx)=f(x_0)+f'(x_0)dx \qquad(5.10)
式(5.8)と式(5.9)はそれぞれ以下のように書き換えられる
$ f(x_0+\Delta x)-f(x_0)\fallingdotseq f'(x_0)\Delta x\qquad(5.11)
$ f(x_0+dx)-f(x_0)\fallingdotseq f'(x_0)dx\qquad(5.12)
ここで$ f(x_0+\Delta x)と$ f(x_0+dx)も$ f(x_0)からみれば「わずかに違う」値であるので、これらと$ f(x_0)との差を、それぞれ$ \Delta fと$ dfと書こう
$ \Delta f:=f(x_0+\Delta x)-f(x_0)\qquad(5.13)
$ df:=f(x_0+dx)-f(x_0)\qquad(5.14)
すると、式(5.11)と式(5.12)はそれぞれ以下のように書ける
$ \Delta f \fallingdotseq f'(x_0) \Delta x \qquad (5.15)
$ df=f'(x_0)dx\qquad(5.16)
これらは「$ \Delta fと$ \Delta xは(近似的に)比例する」「$ dfと$ dxは比例する」という考え方を表す
複雑な関数$ f(x)でも、特定の$ x_0のすぐそばに限定すれば1次関数になり、微小量どうしは比例関係になり、その比例係数が微分係数なのだ
1次関数や比例関係は単純だから扱いやすいので、難しい問題も、1次関数や比例関係の話に持ち込めればなんとかなる
微分と微分係数は同じものを指すことが多い
本来は微分は$ dxや$ dfなどの微小量のこと
多くの本で微分係数や導関数を「微分」と呼ぶ
ところで式(5.16)の両辺を$ dxで割れば
$ f'(x_0)=\frac{df}{dx}\qquad(5.17)
この右辺を次のように書くこともある
$ \frac{d}{dx}f\qquad(5.18)
この場合、$ \frac{d}{dx}という記号は「その右側に来る関数を微分する」という意味
微分の本質は、その定義である式(5.5)と式(5.10)に全て込められている
そこには「グラフ」「接線」「傾き」などの言葉はまったく使われていなかった
わかりやすくするためのもので、本当はなくてもかまわない
これは「抽象化」といって、数学問いう学問の著しい特徴のひとつ 発想の原点に具体的なイメージがあっても、数学の概念として定義するときには、あえてイメージや具体性を消し去って、抽象的な数式と言葉だけで確立する
抽象化された概念はイメージを失うかわりに、大きな汎用性を手に入れる
関数がどのようなグラフになるかが想像できなくても、式(5.5)や式(5.10)が適用できれば、その関数を微分という数学で扱うことができる
関数$ f(x)の様々な点における微分係数を集めて並べた関数を導関数と呼び、$ f'(x)と書く 微分係数や導関数を求めることを「微分する」という
例5.1 関数$ f(x)=2x+1を微分する
$ f(x+dx)=2(x+dx)+1=2x+1+2dx=f(x)+2dx
式(5.10)と較べると、$ dxの係数が導関数$ f'(x)だから、$ f'(x)=2となる
例5.1の問題と解は次のように書いてもよい
$ (2x+1)'=2\qquad(5.19)
式(5.19)の左辺のように、何かの関数の微分(導関数)を表すには、その関数を$ (\quad)で囲って$ 'をつける、あるいは
$ \frac{d}{dx}(2x+1)=2\qquad(5.20)
のように、微分したい関数の前に$ d/dxという記号を書いてもよい
導関数と微分係数の違い
導関数は関数
その1箇所での値が微分係数
例
$ f(x)=x^2という関数の導関数は$ f'(x)=2x
$ x=3での値$ f'(3)=6が「$ x=3における微分係数」
問84 $ p,qを任意の定数とする。1次関数$ f(x)=px+qを微分すると$ f'(x)=pとなること、つまり
$ (px+q)'=p\qquad(5.21)
を示せ。特に、定数関数$ y=qを微分すると、恒等的に$ 0になること(次式)を示せ
$ (q)'=0\qquad(5.22)
解答
$ f(x+dx)=p(x+dx)+q=px+q+p\ dx=f(x)+p\ dx
ここで$ dxの係数に着目して$ f'(x)=p
特に$ f(x)が定数関数の場合は$ p=0だから$ f'(x)は恒等的に$ 0
定数関数のグラフは、$ x軸と平行な直線だから、どの場所でも傾きは$ 0 そのことからも定数関数の導関数が恒等的に$ 0であることが納得できるだろう
また一次関数$ px+qのグラフは、切片$ q、傾き$ pの直線
したがって、どの場所でも傾きは$ pである
そのことからも、$ px+qの導関数が恒等的に$ pであることが納得できるだろう
例5.2 関数$ f(x)=x^2を微分してみよう
$ f(x+dx)=(x+dx)^2=x^2+2x\ dx+dx^2=f(x)+2x\ dx+dx^2
$ dxは$ 0に近い量だから、その2乗である$ dx^2は、さらに果てしなく$ 0に近いはずだ。そこで、この$ dx^2の項は無視しよう
$ f(x+dx)=f(x)+2x\ dx\qquad(5.23)
式(5.10)と較べると、$ dxの係数は$ 2xだから、$ f'(x)=2xとなる
この例の$ dx^2は無視するという考え方はきわめて重要
換言すれば「$ \Delta xは無視できないが$ \Delta x^2は無視できる」くらいに$ \Delta xが$ 0に近付く状況が、これまでに述べてきた「$ \Delta xが限りなく$ 0に近づく」ということ、つまり$ \Delta xが$ dxになること」、つまり「極限」の具体的な意味 そのような状況では、多くの関数で、$ \Delta fと$ \Delta xの関係が、$ dfと$ dxの単なる比例関係になる(とみなせる)
その比例関係が微分係数(または導関数)である
例5.3
関数$ f(x)=x^nを微分しよう($ nは$ 1以上の整数の定数)
二項定理より、
$ \begin{aligned}f(x+dx) & =(x+dx)^n \\ &= {}_n\mathrm C_0x^n+{}_n\mathrm C_1x^{n-1}dx+{}_n\mathrm C_2x^{n-2}dx^2+\cdots \\ & = x^n+nx^{n-1}dx+{}_n\mathrm C_2x^{n-2}dx^2+\cdots \\ &=f(x)+nx^{n-1}dx+{}_n\mathrm C_2x^{n-2}dx^2+\cdots\end{aligned}
ここで$ dx^2以降の項は無視
式(5.10)と較べると、$ dxの係数は$ nx^{n-1}だから次式のようになる
$ f'(x)=nx^{n-1}\qquad(5.24)
この公式にたとえば$ n=2を入れると、
$ (x^2)`=2x\qquad(5.25)
となり、例5.2に一致する
例5.4 関数$ f(x)=1/xを微分しよう
$ f(x+dx)=\frac{1}{x+dx}\qquad(5.26)
ここで分子と分母の両辺に$ x-dxを掛けると
$ f(x+dx)=\frac{x-dx}{(x+dx)(x-dx)}=\frac{x-dx}{x^2-dx^2}
ここで分母の$ dx^2を無視すると
$ f(x+dx)=\frac{x-dx}{x^2}=\frac{1}{x}-\frac{1}{x^2}dx=f(x)-\frac{1}{x^2}dx
式(5.10)と較べると、$ dxの係数は$ -1/x^2だから
$ f'(x)=-\frac{1}{x^2}\qquad(5.27)
ところでこれは式(5.24)で$ n=-1とおいた場合に一致する
もともと式(5.24)では定数$ nを$ 1以上の整数としたが、$ n=-1のときも成り立つことがわかった
5.3 数値微分
計算機で関数の微分を近似的に行うこと
式(5.5)より、微分は次式で定義される
$ f'(x):=\lim_{\Delta x\rightarrow0}\frac{f(x+\Delta x)-f(x)}{\Delta x}\qquad(5.28)
実際は$ \Delta xが「限りなく$ 0に近く」なくても、ある程度まで$ 0に近づければ、このリミットを無視しても、そこそこ正確に計算できるだろう
$ f'(x)\fallingdotseq\frac{f(x+\Delta{x})-f(x)}{\Delta{x}}\qquad(5.29)
これが計算機に微分させるときの発想
表計算ソフトでは$ f(x)について隣り合うセルどうしの差を求め($ f(x+\Delta{x})-f(x))、それを$ xについて隣り合うセルどうしの差($ \Delta{x})で割ればよい
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B3-B2:$ f(x+\Delta x)-f(x)
A3-A2: $ \Delta x
このような計算式で与えられる微分の値は$ x=-1のときではなく$ x=-1と$ x=-0.95の中間付近のものだが、どうせ$ xの刻み($ \Delta x=0.05)は小さいからあまり気にしない
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5.4 グラフから導関数を直感的に作る
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上段: ある関数$ y=f(x)
$ y=f(x)のグラフ上の点A, B, C, D, Eを考えよう
点線: 各点における接線
これらの接線は点Aと点Eではほぼ水平だが、B,C,Dでは右上がり
特にCでの接線の傾きはかなり急
各点での「接線の傾き」をグラフにすると、一つの山型のグラフができる
それが下段の$ y=f'(x)
このように、関数の導関数のグラフを描くには、関数上の各点での「接線の傾き」を考えて、それを別のグラフにプロットすればよい
5.5 微分の公式
実際に関数を微分するときは、微分係数(導関数)の定義式(5.10)まで遡ることは少ない
複雑な関数の場合は数値微分を使う
そうでなければ、いくつかの便利な定理を駆使してやってしまう
以下、$ f(x),g(x)を任意の(微分可能な)関数とする
微分の公式1: 足し算はバラせる
$ \{f(x)+g(x)\}'=f'(x)+g'(x)\qquad(5.30)
証明
$ F(x)=f(x)+g(x)とおくと
$ \begin{aligned}F(x+dx) & = f(x+dx)+g(x+dx) \\ & = f(x)+f'(x)dx+g(x)+g'(x)dx \\ & = f(x) + g(x) + \{f'(x)+g'(x)\}dx \\ & = F(x) + \{f'(x)+g'(x)\}dx\qquad(5.31)\end{aligned}
ここで$ dxの係数に着目すると、微分係数の定義から$ F'(x)=f'(x)+g'(x)
微分の公式2: 定数倍は前に出せる
$ aを定数として
$ \{af(x)\}'=af'(x)\qquad(5.32)
証明
$ F(x)=af(x)とおくと
$ \begin{aligned}F(x+dx)&=af(x+dx)=a\{f(x)+f'(x)dx\} \\ &=af(x)+af'(x)dx \\ &=F(x)+af'(x)dx\qquad(5.33)\end{aligned}
ここで$ dxの係数に着目すると、微分係数の定義から$ F'(x)=af'(x)
微分の公式1と2は、要するに「足し算の微分」は「微分どうしの足し算」にバラせるし、微分の中の定数倍は微分の外に出せる
例5.7
$ f(x)=x^3+2x^2+3x+1を微分しよう
$ f'(x)=(x^3)'+2(x^2)'+3(x')+(1)'
$ (1)'とは定数関数$ 1の微分であり、式(5.22)よりもちろん$ 0
式(5.24)を使うと$ f'(x)=3x^2+4x+3
微分の公式3: 積の微分
$ \{f(x)g(x)\}'=f'(x)g(x)+f(x)g'(x)\qquad(5.34)
証明
$ F(x)=f(x)g(x)とおくと
$ \begin{aligned}F(x+dx)&=f(x+dx)g(x+dx)\\&=\{f(x)+f'(x)dx\}\{g(x)+g'(x)dx\}\\&=f(x)g(x)+f'(x)g(x)dx+f(x)g'(x)dx+f'(x)g'(x)dx^2\end{aligned}
ここで$ dx^2を無視し、さらに$ dxの項を整理し、また、$ f(x)g(x)を$ F(x)で置き換えると
$ F(x+dx)=F(x)+\{f(x)g(x)+f(x)g'(x)\}dx
$ dxの係数に着目すると、微分係数の定義から
$ F'(x)=f'(x)g(x)+f(x)g'(x)\qquad(5.35)
例5.8
関数$ F(x)=(x^2+2)(x^2+x+3)を微分
$ \begin{aligned} F'(x) & = (x^2+2)'(x^2+x+3)+(x^2+2)(x^2+x+3)' \\ & = 2x(x^2+x+3)+(x^2+2)(2x+1) \\ & = 4x^3+3x^2+10x+2\end{aligned}
一方、先に因数を展開することもできる
$ \begin{aligned} F'(x) &= (x^4+x^3+5x^2+2x+6)' \\ & = (x^4)'+(x^3)'+5(x^2)'+2(x)'+(6)' \\ & = 4x^3+3x^2+10x+2 \qquad(5.36) \end{aligned}
このように数学はいろんなやり方で正解に到達できる
問87 以下の関数
$ f(x)=(x^2+x+1)(x^2-x-2)\qquad(5.37)
について、
(1) 2つの関数:$ x^2+x+1と$ x^2-x-2の積とみなして、積の微分の公式を使って微分せよ
(2) 因数を展開してから微分し、前小問の結果と一致することを確認せよ
「関数$ f(x)などの$ (x)を省略して書くことがよくあり、公式1,2,3はそれぞれ以下のようになる
$ (f+g)'=f'+g'\qquad(5.38)
$ (af)'=af'\qquad(5.39)
$ (fg)'=f'g+fg'\qquad(5.40)
微分の公式4: 合成関数の微分
$ \{g(f(x))\}'=g'(f(x))f'(x)\qquad(5.41)
注: ここで$ g'(f(x))は$ g(x)の導関数$ g'(x)の$ xの部分に$ f(x)を代入したものであり、$ g(f(x))の導関数ではない
例5.9
関数$ (x^2+1)^3を微分
この関数を「$ g(x)=x^3という関数の$ xの部分に$ f(x)=x^2+1という関数を入れたもの」とみなす
$ g'(x)=3x^2だから公式4より
$ \begin{aligned}\{(x^2+1)^3\}'&=\{(f(x))^3\}'=3(f(x))^2f'(x)\\&=3(x^2+1)^2\{(x^2+1)'\}=3(x^2+1)^2(2x)=6x(x^2+1)^2\qquad(5.42)\end{aligned}
これで完了としてよいが、ここではあえて式(5.42)を展開すると
$ 6x^5+12x^3+6x\qquad(5.43)
一方、$ (x^2+1)^3を先に展開してから微分すると、
$ \{(x^2+1)^3\}'=(x^6+3x^4+3x^2+1)'=6x^5+12x^3+6x\qquad(5.44)
例5.9は、公式4を使わなくても式を展開してから普通に微分すれば解けた
しかし公式4がどうしても必要になる場面もたくさんある
例5.10
$ 1/(2x^2+1)という関数を微分してみよう
$ f(x)=2x^2+1,g(x)=1/xとして、公式4を使う
式(5.27)より$ g'(x)=-1/x^2
したがって、
$ \begin{aligned}\left\{\frac{1}{2x^2+1}\right\}'&=-\frac{1}{(f(x))^2}\times f'(x) \\ & = -\frac{1}{(2x^2+1)^2}\times (2x^2+1)' \\ & = -\frac{4x}{(2x^2+1)^2}\qquad(5.45)\end{aligned}
実際には$ g(x)や$ f(x)をわざわざ作ったりしないで、頭の中でまず$ 2x^2+1をひとつの変数とみなして全体を微分し、さらに$ 2x^2+1を$ xで微分して掛け合わせ、いきなり式(5.45)の最後の行を暗算で導出できるようになるのが望ましい
公式4の証明
$ F(x)=g(f(x))とおくと
$ \begin{aligned}F(x+dx)&=g(f(x+dx))\\&=g(f(x)+f'(x)dx)\qquad(5.46)\end{aligned}
ここで$ dxは$ 0に限りなく近い微小量だから、$ f'(x)dxも$ 0に限りなく近い微小量とみなせる
そこで、微分係数の定義式(5.10)んいおいて、$ f(x)を$ g(x)とし、$ x_0を$ f(x)とし、$ dxを$ f'(x)dxとすれば、式(5.46)はさらに続けて次のように変形できる
$ g(f(x)+f'(x)dx)=g(f(x))+g'(f(x))\{f'(x)dx\}\qquad(5.47)
この右辺第一項の$ g(f(x))は無論$ F(x)である
したがって、式(5.46)式(5.47)より
$ F(x+dx)=F(x)+g'(f(x))f'(x)dx\qquad(5.48)
$ dxに係数に着目すると、微分係数の定義から$ F'(x)=g'(f(x))f'(x)となり、式(5.41)が得られた
この公式は一見複雑そうに見えるが、式(5.17)の書き方を使うと
$ \frac{dg}{dx}=\frac{dg}{df}\frac{df}{dx}\qquad(5.49)
右辺に現れる2つの微分の掛け算を、形式的に、微小量$ dg,df,dxの分数の掛け算とみなせば、右辺を約分したものが左辺になるだけ
問89 関数$ u(x)の逆数で表される関数$ \frac{1}{u(x)}の導関数は、以下で与えられることを示せ(ただし$ u(x)は$ 0にならないものとする)
$ \left(\frac{1}{u}\right)'=-\frac{u'}{u^2}\qquad(5.50)
関数$ 1/u(x)は関数$ 1/xと関数$ u(x)の合成関数である。$ (1/x)'=-1/x^2だから
$ \left(\frac{1}{u}\right)'=\left(-\frac{1}{u^2}\right)u'=-\frac{u'}{u^2}
問90 関数$ v(x)と$ u(x)の比で作られる関数$ v(x)/u(x)の導関数は、以下で与えられることを示せ(ただし$ u(x)は$ 0にならないものとする)
$ \left(\frac{v}{u}\right)'=\frac{v'u-vu'}{u^2}\qquad(5.51)
関数$ v(x)/u(x)は、関数$ v(x)と関数$ 1/u(x)の積
$ \begin{aligned}\left(v\times\frac{1}{u}\right)'&=v'\left(\frac{1}{u}\right)+v\left(\frac{1}{u}\right)'\\&=v'\left(\frac{1}{u}\right)+v\left(-\frac{u'}{u^2}\right)=\frac{v'u-vu'}{u^2}\end{aligned}
例5.11 $ 1/x^nを微分してみよう($ nは$ 1以上の整数の定数とする)
この関数は
$ g(x)=x^nと、$ f(x)=\frac{1}{x}
の合成関数とみなせる。実際
$ g(f(x))=\left(\frac{1}{x}\right)^n=\frac{1}{x^n}\qquad(5.52)
となる.
ところで式(5.24)より$ g'(x)=nx^{n-1}であり、例5.4より$ f'(x)=-1/x^2だから式(5.41)より、次式が成り立つ
$ \begin{aligned}\left(\frac{1}{x^n}\right)'&=n\left(\frac{1}{x}\right)^{n-1}\left(\frac{1}{x}\right)' \\ &= n\left(\frac{1}{x}\right)^{n-1}\left(-\frac{1}{x^2}\right) \\ &=-\frac{n}{x^{n+1}}\qquad(5.53)\end{aligned}
式(5.53)に書き換えられる
$ (x^{-n})'=-nx^{-n-1}\qquad(5.54)
これは、式(5.24)で$ nを$ -nと置き換えたものに一致する
もともと式(5.24)では、$ nを$ 1以上の整数としたが、これで、定数$ nが負の整数のときも成り立つことがわかった
微分の公式5 : 逆関数の微分
$ g(x)を$ f(x)の逆関数とすると、
$ g'(x)=\frac{1}{f'(g(x))}\qquad(5.55)
注: ここで$ f'(g(x))は、$ f(x)の導関数$ f'(x)に$ g(x)を代入したもので、$ f(g(x)))の導関数ではない
証明
合成関数の微分より
$ \{f(g(x))\}'=f'(g(x))g'(x)\qquad(5.56)
ところで$ g(x)は$ f(x)の逆関数だから、恒等的に$ f(g(x))=xである。したがって
$ \{f(g(x))\}'=(x)'=1\qquad(5.57)
式(5.56)と式(5.57)より、$ f'(g(x))g'(x)=1
この両辺を$ f'(g(x))で割れば、$ g'(x)=1/f'(g(x))となり、式(5.55)に一致する
例5.12
$ f(x)=x^{1/n}を微分($ nは$ 1以上の整数とする)
$ g(x)=x^nとすると$ g(f(x))=xだから$ g(x)と$ f(x)は互いに逆関数
一方、$ g'(x)=nx^{n-1}である。式(5.55)(逆関数の微分)より
$ \begin{aligned}f'(x)&=\frac{1}{g'(f(x))}=\frac{1}{n(f(x))^{n-1}}=\frac{1}{n(x^{1/n})^{n-1}} \\ &= \frac{1}{nx^{(n-1)/n}}=\frac{1}{n}x^{-(n-1)/n} \\ &= \frac{1}{n}x^{(1-n)/n}=\frac{1}{n}x^{(1/n)-1}\qquad(5.58)\end{aligned}
式(5.58)は式(5.24)で$ nを$ 1/nと置き換えたものに一致する
これで式(5.24)は定数$ nが正の整数の逆数のときも成り立つことがわかった
式(5.24)、式(5.54)、式(5.58)からわかったように、定数$ \alphaが正の整数または負の整数または正の整数の逆数のとき、
$ (x^\alpha)'=\alpha x^{\alpha-1}\qquad(5.59)
が成り立つ
そのことと合成関数の微分の公式を使えば、$ \alphaが負の整数のときや、$ 0以外の有理数(整数どうしの比で表される数)のときもこれが成り立つことが証明できる
実数は有理数の極限として表される(高度な数学なので割愛)ので、有理数で成り立てば、実数でも成り立つ
したがって、以下の公式が成り立つことがわかった
微分の公式6: べき関数の微分
定数$ \alphaが$ 0以外の実数であれば、
$ (x^\alpha)'=\alpha x^{\alpha-1}\qquad(5.60)
例5.13
もういちど関数$ f(x)=1/xを微分
$ 1/x=x{-1}だから、式(5.60)で$ \alpha=-1とすれば、
$ f'(x)=(x^{-1})'=-1\cdot x^{-2}=-\frac{1}{x^2}\qquad(5.61)
これは式(5.27)と一致する
例5.14
$ \sqrt x微分
$ (\sqrt x)'=(x^{1/2})'=\frac{1}{2}x^{1/2-1}=\frac{1}{2}x^{-1/2}=\frac{1}{2\sqrt{x}}
例5.15
$ \sqrt{x^2+1}を微分
$ g(x)=\sqrt{x}と$ f(x)=x^2+1の合成関数$ g(f(x))とみなして
$ (\sqrt{x^2+1})'=\frac{1}{2\sqrt{x^2+1}}\times(x^2+1)'=\frac{2x}{2\sqrt{x^2+1}}=\frac{x}{\sqrt{x^2+1}}\qquad(5.63)
例5.16
$ x\sqrt{x^2+1}を微分
$ (x\sqrt{x^2+1})'=x'\sqrt{x^2+1}+x(\sqrt{x^2+1})'=\sqrt{x^2+1}+x\times\frac{x}{\sqrt{x^2+1}}=\sqrt{x^2+1}+\frac{x^2}{\sqrt{x^2+1}}\qquad(5.63)
5.6 線形近似
微分はもともと、関数のグラフを直線(1次式)で近似することが発想の原点
素直に使えば、複雑な関数を単純な1次式で近似できる
式(5.8)で述べたように、関数$ f(x)の$ x=x_0における微分係数$ f'(x_0)は以下を満たす
$ f(x_0+\Delta x)\fallingdotseq f(x_0)+f'(x_0)\Delta x\qquad(5.64)
$ \Delta xが$ 0に近くなるほど、近似等号$ \fallingdotseqは等号$ =に近づくので、$ \Delta xがたとえ有限小であってもそこそこ$ 0に近ければ、この式の右辺は概ね左辺に等しいと考えられる
特に$ x_0=0とし、$ 0に近い範囲でしか$ xを考えないという前提で$ \Delta xを$ xと置き換えることで式(5.64)は
$ f(x)\fallingdotseq f(0)+f'(0)x\qquad(5.65)
例5.17
$ f(x)=\sqrt{1+x}を線形近似する
$ f'(x)=1/(2\sqrt{1+x})だから、$ f(0)=1, f'(0)=1/2
これを式(5.65)に入れると、$ x=0付近で
$ \sqrt{1+x}\fallingdotseq1+\frac{x}{2}\qquad(5.66)
実際にいくつかの値を計算
$ \sqrt{1.1}=1.04880\cdotsだが式(5.66)より、
$ \sqrt{1.1}=\sqrt{1+0.1}\fallingdotseq1+0.1/2=1.05
$ \sqrt{1.01}=1.004987\cdotsだが式(5.66)より
$ \sqrt{1.01}=\sqrt{1+0.001}\fallingdotseq1+0.01/2=1.005
問95 $ x=0付近で以下の式が成り立つことを示せ(ただし$ aは任意の実数)
$ (1+x)^a\fallingdotseq1+ax\qquad(5.67)
$ f(x)=(1+x)^aと置くと$ f(0)=1
また、$ f'(x)=a(1+x)^{a-1}だから、したがって$ f'(0)=a
これを式(5.65)に入れると与式を得る
例5.18 $ (1.01)^{10}の近似値を求めよう
これがもし$ 1^{10}なら楽
$ (1.01)^{10}=(1+0.01)^{10}\fallingdotseq1+10\times0.01=1.1
正確には$ (1.01)^{10}=1.1046であり、有効数字3桁まで合っている
例5.19 $ \sqrt{26}の近似値を求めよう
$ 2乗して$ 26に近い数を考えると$ 5^2=25
そこで$ 26=25+1を考える
$ \sqrt{25}=\sqrt{25+1}=\sqrt{25\left(1+\frac{1}{25}\right)}=5\sqrt{1+\frac{1}{25}}\fallingdotseq 5\left(1+\frac{1}{50}\right)=5.1
$ \frac{1}{25}は$ 0にそこそこ近いので式(5.67)が使えた
まずざっくり簡単な近似値を勘で見つけることが大事で、それをもとに線形近似で精度を上げる
線形近似より精度の良い近似がほしいという場合は1次式ではなく2次式、3次式と高次の多項式で関数を近似すればよい
5.7 高階導関数
関数$ f(x)を2回続けて微分することを考える
$ \frac{d}{dx}\left(\frac{d}{dx}f(x)\right)\qquad(5.68)
とも書けるので、形式的に縮めて
$ \frac{d^2}{dx^2}f(x)とか$ \frac{d^2f}{dx^2}(x)とか$ \frac{d^2f}{dx^2}と書くこともある
$ n階導関数は以下のように書く
$ f^{(n)}(x)\qquad(5.69)
$ f'''''(x)とか書くのは格好が悪いので$ 3階以上になったら$ (3) というふうに書く
$ \frac{d^n}{dx^n}f(x)\qquad(5.70)
$ \frac{d^nf}{dx^n}(x)\qquad(5.71)
$ \frac{d^nf}{dx^n}\qquad(5.72)
独立変数$ xやその値が文脈上明らかであれば$ (x)は省略しても構わない
5.8 微分ができない場合
微分ができない=導関数や微分係数が存在しない場合もたくさんある
例5.20
関数$ f(x)=1/xは$ x=0以外では微分できて、導関数は$ f'(x)=-1/x^2
$ x=0ではどうか
微分の定義に戻ると、微分には$ f(x_0)の値が必要
今は$ x_0=0を考えているので$ f(0)が必要
でもこの関数に$ f(0)は存在しない
したがって$ 1/xは$ x=0では微分できない
微分したい位置でそもそも関数の値が定まっていない場合、微分はできない
例5.21
次のような関数$ f(x)の微分を考える
$ f(x)=|x|\qquad(5.73)
これは↓ということ
$ f(x)=\begin{cases}-x & (x<0のとき) \\ x & (0\leq xのとき)\end{cases}
したがって導関数は
$ f'(x)=\begin{cases}-1 & (x<0のとき) \\ 1 & (0\leq xのとき)\end{cases} \qquad(5.74)
これは概ね正しいが$ x=0のところで間違っている
微分の定義式(5.10)に戻る
$ x_0=0とすれば式(5.10)は↓になる
$ f(0+dx)=f(0)+f'(0)dx\qquad(5.75)
ここで式(5.73)より$ f(0)=0だから式(5.75)は↓になる
$ f(dx)=f'(0)dx\qquad(5.76)
もし式(5.74)が正しければ$ f'(0)=1となりしたがって式(5.76)は↓になるはず
$ f(dx)=dx\qquad(5.77)
ところが$ dxは$ 0に近い任意の微小量dから$ dx<0となる場合もある
その場合、式(5.77)から$ f(dx)<0となる
ところが式(5.73)より、この関数は決して負の値をとることはありえない
したがって式(5.74)は$ x=0で正しくない
同様に考えれば$ f'(0)をどのような値にしても矛盾が生じることがわかる
したがって、$ f'(0)は存在しない、すなわちこの関数は$ x=0では微分できない
一般にグラフが尖っている箇所では関数は微分できない
式に絶対値記号が入っていて、絶対値記号の内側が$ 0になるときにこのような状況になることが多い
https://gyazo.com/f8c46f394b407dd0610a4502d65bfa62
例5.22 以下の関数
$ f(x)=\begin{cases}0 & (x<0のとき) \\ 1 & (0\leq xのとき)\end{cases}\qquad(5.78)
の微分を考える。定数関数の微分は$ 0だから
$ f'(x)=\begin{cases}0 & (x<0のとき) \\ 0 & (0\leq xのとき)\end{cases}\qquad(5.79)
つまり、$ f'(x)=0のように思うかも知れない
これも概ね正しいが、$ x=0のところで間違っている
$ x_0=0, f(x_0)=f(0)=1とすれば↓になる
$ f(dx)=1+f'(0)dx\qquad(5.80)
もし式(5.79)が正しければ$ f'(0)=0となり、したがって式(5.80)は↓になるはず
$ f(dx)=1\qquad(5.81)
$ dxは$ 0に近い任意の微小量
一般にグラフがつながっていないようなところでは、関数は微分できない
https://gyazo.com/4eb83643a4e98373044970a889543ba0
例5.23
以下の関数の微分を考える
$ f(x)=x^{1/3}
機械的に導関数を計算すると
$ f'(x)=\frac{1}{3x^{2/3}}\qquad(5.82)
これは正しいのだが、この式では$ x=0での値が定まらなi
この関数は$ f'(0)を持たないので$ x=0で微分不可能
この例5.23では微分したい位置($ x=0)で関数の値は定まるが導関数の値が定まらない($ \inftyになってしまう)
https://gyazo.com/299a79e36b7325f1f6e07f98a86d034d
グラフが垂直に立つようなところでは関数は微分できない
数学的には式(5.5)や式(5.10)によって$ f'が一意的に定義できる場合、微分可能
さしあたって実用的には、場合分けや絶対値記号が無く、同関数の式を導くことができ、微分したい位置の$ xの値をもとの関数と導関数の両方に代入してそれぞれ値が定まるようならば、殆どの場合微分できると思ってよい
5.9 速度・加速度
物理学で最初に出てくる微分は、速度や加速度という考え方 $ x軸上を移動する点Pがあるとする
時間$ tのときのPの位置($ x座標)を$ x(t)とする
ある時刻$ t_0ではPは$ x(t_0),$ t_1では$ x(t_1)にある
$ t
2つの時刻の差$ t_1-t_0
実際は「時刻差」という言葉はめったに使わない
時刻差の絶対値$ |t_1-t_o|
時間は常に$ 0以上の値をとる
$ x(t)
2つの位置の差$ x(t_1)-x(t_0)
変位の絶対値$ |x_(t_1)-x_(t_0)|
「時刻$ t_0から$ t_1の間のPの平均速度$ \bar v」を次式で定義する
$ \bar v := \frac{x(t_1)-x(t_0)}{t_1-t_0}\qquad(5.83)
平均速度とは変位を時刻差で割ったもの
平均速度の正負は移動の向きを表す
細やかな変化も表現するには、時刻$ t_0と時刻$ t_1n間をできるだけ短くして表現しなければならない
式(5.83)の$ t_1が限りなく$ t_0に近い場合(極限)を考えると、次式のようになる
$ v(t_0):=\lim_{t_1\rightarrow t_0}\frac{x(t_1)-x(t_0)}{t_1-t_0}\qquad(5.84)
あるいは$ t_1-t_0=\Delta tと書いて
$ v(t_0):=\lim_{\Delta t\rightarrow 0}\frac{x(t_0+\Delta t)-x(t_0)}{\Delta t}\qquad(5.84)
これは$ x(t)という関数の$ t=t_0での微分係数
要するに速度とは位置を時刻で微分したものである(定義)
このように定義した速度を平均速度と区別するために「瞬間の速度」ということもある
時刻$ tにおける速度$ v(t)は定義より$ x'(t)と書ける
物理学では$ x'(t)のことを$ \dot xと表すこともある
$ v(t)=\frac{dx}{dt}=x'(t)=\dot x\qquad(5.86)
瞬間の速度にも正負があり、それは運動の方向を表す
式(5.83)の左辺と右辺のそれぞれ絶対値をとると
$ |\bar v| = \frac{|x(t_1)-x(t_0)|}{|t_1-t_0|}\qquad(5.87)
右辺の$ |x(t_1)-x(t_0)|は距離、$ |t_1-t_0|は時間だから、式(5.87)は
$ 平均速さ=距離\div時間
つまり、小学校で習った「速さ」は正確に言うと平均速さ
「速さ」は「速度」の大きさ(絶対値)だから、必ず$ 0以上の値
負の値をとることはない
つまり速さには「向き」の概念がない
速さと向きをセットにした概念が速度
式(5.10)、式(5.86)より次式のようにも書ける
$ x(t+dt)=x(t)+v(t)dt\qquad(5.88)
ここで$ dtは 微小な時刻差
この式(5.88)によれば、$ dtだけ時刻が変化したときの位置($ x(t+dt))は、現在の位置($ x(t))から$ v(t)dtだけ変化する
つまり、時刻差が微小な場合は、変位は速度と時刻差の積に等しい
それは式(5.88)を↓のように変形すればより明らか
$ x(t+dt)-x(t)=v(t)dt\qquad(5.89)
ここで式(5.89)について両辺の絶対値をとると
$ |x(t+dt)-x(t)|=|v(t)||dt|\qquad(5.90)
左辺は距離、右辺は速さと時間の積である
これは小学校で習った下の式と整合的
$ 距離=速さ\times時間\qquad(5.91)
速度を時刻で微分したものを加速度という(定義)
時刻$ tにおける加速度$ a(t)とは
$ a(t)=v'(t)\qquad(5.92)
式(5.10)を使って式(5.92)を書き換えれば
$ v(t+dt)=v(t)+a(t)dt\qquad(5.93)
式(5.86)を使えば式(5.92)は
$ a(t)=v'(t)=x''(t)\qquad(5.94)
すなわち、加速度は位置を時刻で二階微分したもの
物理量を物理量で微分すると次元が変わることに注意
位置の次元は「長さ」だが、位置を時刻で微分して速度にすると、その次元は「長さ/時間」となる
なぜ次元が変わるのか
式(5.85)で分母に$ \Delta tがある
つまり、時刻で微分するときは「時間で割っている」
一般に量$ pを量$ qで微分して得られる量の次元は$ pの次元/「$ qの次元」になる
したがって、速度を更に時刻で微分すると次元は「長さ/時間$ ^2」になる
5.10 極大・極小と微分係数
なめらかな関数が最小値や最大値をとるところでは微分係数は$ 0になる
関数$ f(x)=x^2+1を考える
$ f'(x)=2xとなるから$ f'(0)=0
つまり$ x=0での微分係数は$ 0
$ x=0のとき$ y=f(x)は最小値をとっている
一般に、関数$ f(x)が$ x=x_0で最小値をとるとする
微分係数の定義式(5.10)から、任意の微小量$ \Delta xに対して↓
$ f(x_0+\Delta x)\fallingdotseq f(x_0)+f'(x_0)\Delta x\qquad(5.95)
$ f'(x_0)=0でなければならない
$ f'(x_0)が正の値をとっている場合
$ \Delta xとして負の微小量をとると$ f'(x_0)\Delta x<0となるから、式(5.95)より$ f(x_0+\Delta x)<f(x_0)となり、$ f(x_0)が最小値であるという前提が崩れる
$ f'(x_0)が負の値をとっている場合
$ \Delta xとして正の微小量をとると、$ f'(x_0)\Delta x<0となるから、この場合も式(5.95)より$ f(x_0+\Delta x) < f(x_0)となり、$ f(x_0)が最小値であるという前提が崩れる
最大値の場合も同様
グラフで考えれば、$ y=f(x)のグラフの$ x=x_0での傾きが$ f'(x_0)
したがって、$ f'(x_0)=0ということはそこの傾きが$ 0
グラフが滑らかに繋がっていれば、最大値や最小値の部分で接線が水平になるのは直感的に明らか
このことを利用して、関数の最大値や最小値を求めることができる
例5.24 関数$ f(x)=2x^4-xの最小値を求める
$ f'(x)=8x^3-1
$ f'(x)=0となるのは$ 8x^3-1=0より、$ x=\frac{1}{2}
このとき$ f(1/2)=-\frac{3}{8}
以上の話は関数$ f(x)の定義域全体に限ったことではなく、$ xの限られた範囲の中で、ある点での値が、その周辺での値に比べて最大だったり最小だったりするときにも成り立つ
最大は極大の一種で、最小は極小の一種
たとえば、関数$ f(x)=x^3-xの導関数は$ f'(x)=3x^2-1となるので、$ x=-1\sqrt3と$ x=1\sqrt3のときに$ 0になる
https://gyazo.com/ac750bf1302663b275316d39d0a8c036
前者はグラフの左側の山(極大)、後者は右側の谷(極小)に対応している
しかし、明らかにこれらは最大でも最小でもない
極大における関数の値
極小における関数の値
以上を利用すると関数のグラフを楽に描ける
例5.25 $ y=x^4-x^2のグラフを描く
また$ x軸との共有点($ y=0)は$ x=0, \pm1
次に極大と極小を求める
$ f'(x)=4x^3-2xだから$ x=0,\pm1/\sqrt2で$ f'(x)=0となる
$ x=-1/\sqrt2について
それより少し小さな$ xでは$ f'(x)<0, それより少し大きな$ xでは$ f'(x)>0となるから、そこでは極小値$ f(-1/\sqrt2)=-1/4をとる
点の左右の傾きを考えると最小値になる
$ x=1/\sqrt2についても同様
$ x=0について
それより少し小さな$ xでは$ f'(x)>0、それより少し大きな$ xでは$ f'(x)<0となるから、そこでは極大値$ f(0)=0をとる
$ x\rightarrow\inftyで$ f(x)\rightarrow\inftyであることを考えると
https://gyazo.com/af7eabfa4995aa987e43f707682ca672
以上でわかったように、なめらかな関数のグラフが極大値や極小値を取る場所では、微分係数は$ 0
その逆は必ずしも成り立たないことに注意
たとえば関数$ y=x^3は$ x=0での微分係数は$ 0だが極大にも極小にもならない
https://gyazo.com/b8d388b3ed85af38aa0076207d0fb5eb
5.11 偶関数や奇関数の微分
関数$ f(x)が偶関数であるとする($ f(-x)=f(x)が恒等的に成り立つ)
この両辺を$ xで微分すると$ -f'(-x)=f'(x)となる
左辺は合成関数の微分
すなわち、$ f'(-x)=-f'(x)が恒等的に成り立つ
偶関数の導関数は奇関数
問102 奇関数の導関数は偶関数であることを示せ
$ f(x)が奇関数である($ f(-x)=-f(x)が恒等的に成り立つ)
この両辺を$ xで微分すると$ -f'(-x)=-f'(x)
すなわち$ f'(-x)=f'(x)
すなわち$ f'(x)は偶関数である